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『予防接種の地域差を探る』 -今日の課題-

★今日の課題★
季節性インフルエンザワクチン予防接種から見る地域の医療格差




予防接種費用

一般医療は全国一律公定価格

 わが国で医療を受診すると、多くは保険証を出して精算します。

 この保険証は被保険者である証しですが、支払いの一部は保険者が担うことを約束するものでもあります。

 『3割負担』というのは総医療費の3割を窓口で受益者(受診者)が自己負担し、残る7割は保険者が支払っています。

 このとき計算される『総医療費』が診療報酬として予め決められており、概ね全国一律の価格になっています。

 ここで受けられる医療を『保険医療』とも呼びます。



自由診療

 保険診療に反する用語として『自由診療』があります。

 価格は自由設定、処置内容なども自由に選ぶ事ができます。

 美容外科や審美歯科などでは自由診療が多く行われています。保険の公平性などから適用外となっている医学的処置などを受ける場合に、自由診療が活用されています。



混合診療

 保険診療と自由診療を同時に行う事を『混合診療』と言います。

 一般的には認められていませんが、一部で認められる場合があります。それは人道的なことや、医学の発展に関わることです。

 また『差額ベッド』『予約料』のような患者の都合に合わせるために提供されるサービスについては『保険外併用療養費』として届出をすれば徴収が認められています。

【参考】厚生労働省: 保険診療と保険外診療の併用について

【参考】厚生労働省九州厚生局: 保険外併用療養費医療機関名簿(福岡県)



インフルエンザ予防接種は自由診療

 季節性インフルエンザの予防接種は自由診療です。

 保険適用外なので自由診療ですが、ワクチンを投与する行為は医師免許の下でしかできませんので、誰もが自由に施術できるという意味ではありません。

 自由診療とはいえ、投与方法はだいたい決められた中で行われています。使われる医薬品も注射器も、だいたいどこの施設へ行っても同じ物を使っています。

 異なるのは、費用です。



最低価格や上限設定はない

 自由診療は、費用についての制限を受ける事はありません。

 わかりやすい例では健康診断があります。
 フロアー貸切、ホテル直結などのサービスを展開する施設では1組100万円以上です。
 1~2万円の健診でも高いなと思いながら受診している身としてはすごいな、という事くらいしか言えません。

 とはいえ、医療には高い倫理観がありますので、法外な価格設定ということはなく、原価を見れば納得の適正価格であると納得できると思います。



ワクチン予防接種の価格差

 季節性インフルエンザワクチンの予防接種は毎年数千万人が受けますが、その価格は一定ではありません。

 どのくらい一定でないかというと….わかりません。




季節性インフルエンザワクチン予防接種費用全国調査

コンサルとして独自調査

 『最近のコンサルはその場しのぎ』『大したことを言わない』などと敬遠され、なかなかお仕事を頂けないのが若輩者の医療系コンサルタントの現状です。

 付け焼刃のような問答が信頼性を損なう原因である事は、特に医師ら知的な人材と接していると実感します。

 そこで、なるべく調査をするのですが、世の中に存在しないデータという物に直面することがしばしばあります。

 今回、予防接種費用について厚労省などの資料を調査しましたが見つからないので、独自に調査する事にしました。



47都道府県ネット検索

 各都道府県上位5施設ずつ、235件の予防接種料金を調べました。

 事前予想では都市部は家賃が高いので高額、地方に行くほど安い、北海道や沖縄は運賃の分だけ高い、などと考えていましたがそう単純でも無かったです。

Google検索『インフルエンザ 予防接種 料金』

NES株式会社: 季節性インフルエンザワクチン予防接種の全国費用概況調査について, 2020年10月31日



ヒストグラム

 今回の調査でどの価格帯に設定する先生が多いのかが少し見えました。

 『3,500円』が最多、次いで『3,000円』『4,000円』となりました。消費税の関係などで多少の前後がありますが、概ねそのあたりでした。



都道府県別平均額

 都道府県別の平均額については、再調査が必要だなと実感しています。

 東北エリアでなぜ岩手だけが突出するのか、福島・長野・静岡など4,000円を超えたエリアも背景が知りたくなりました。

 広島と岡山の違いは何なのか、ここも解くべき謎があるように思えます。



インフルエンザ流行と集団免疫

 ワクチン接種率が高いことは免疫保有率の高さにも関係すると思えますので、エリア人口の半数が接種することが望ましいと思います。

 この価格差が、ワクチン接種の動機と関係してしまうのであれば、もしかすると高額地域では免疫保有率が低いかもしれませんし、逆に金額は無視してでもワクチン接種する地域という事であれば裕福であり、共生する力の強い地域であるとも考えられます。

今日の時点では不明

 今年はインフルエンザが流行していません。

 国立感染症研究所のインフルエンザのレポートが出る時期でもないので免疫保有率はわかっていません。

 新しい知見が得られれば、コンサルタントとして1つステップアップできるような気がします。

 今冬、しっかり検討したいと思います。




季節性インフルエンザワクチン

供給量は国民の半数以下

 今年の季節性インフルエンザワクチンの供給量は約3,322万本と厚生労働省が発表しました。

【参考】厚生労働省: 季節性インフルエンザワクチンの供給について(更新情報)


 バイアル瓶1本が1mL、1回の接種量が0.5mLなので接種回数で言えば6,644万回分が供給される事になります。

 2020年10月1日現在のわが国の人口は1億2,588万人ですので単純計算で53%の人が1回ずつ接種できる計算になります。

※.厳密には3歳未満は0.25mLを2回、3歳以上13歳未満は0.5mLを2回投与する事が推奨されているので人口の単純計算が正しい訳ではありません。



今年は高齢接種者増

 今年は65歳以上を10月1日~25日まで優先的に接種できるように厚生労働省から呼び掛けがあった影響で、この25日間に多くの高齢者が接種した模様です。

 2020年限定の制度として65歳以上は無料接種という施策が実施され、この短期間での接種希望者は相当に多くなったとみられます。

 ちなみに高齢者無料の財源ですが、市民の税金で賄われています。
 埼玉県の例ですと155万人分で21億4千万円、1人あたり1,380円を予算化しています。市町村では高齢者等の自己負担軽減の措置がとられており、軽減後の自己負担額を県が出すことで接種される人は無料になるという制度です。 

【参考】厚生労働省: 季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い

【参考】東京新聞: インフルワクチン 高齢者の接種を無償化へ 155万人分, 2020年9月25日



生産年齢人口に充足するか?

 わが国の人口構造は15歳未満が1,510万人、15~64歳の生産年齢人口が7,471万人、65歳以上の高齢者が3,607万人です。

 仮に高齢者の半数が予防接種すると約1,800万人、4分の3が予防接種すると2,700万人になります。ワクチン6,644万回分から差し引くとそれぞれ4,844万回、3,944万回となります。

 ここに65歳未満の8,981万人が集中することになります。今年の供給量は決まってしまっているので、希望者数によっては争奪戦が始まります。

 もし子供たちに必要なワクチン接種をさせてあげようと思うと生産年齢人口の2~3割しか接種できないかもしれません。



例年とは違う

 厚生労働省の発表によれば、今年は過去最大量のワクチン供給が見込まれています。

 例年ですとワクチンの供給量に対して接種者が少ないので、何百万本も廃棄されています。

 ところが今年は感染症に対する国民意識が異なることや、高齢者らが無料で接種できることなど背景が異なるため、はたしてこの供給量で『接種したい』という人数とバランスが取れるのかが心配です。

【参考】厚生労働省: 季節性インフルエンザワクチンの供給について, 医政経発0909第1号/健健発0909第1号/健感発0909第3号, 2020年9月9日



集団免疫と再生産数

 今年はテレビなどでも聞くことがあった『集団免疫』『再生産数』は季節性インフルエンザにも適用されます。

 インフルエンザの『流行』を防ぐには集団免疫率は50%以上を達成できれば理論上の流行拡大防止となります。

 今年供給されるワクチンで1人1回接種、全員の免疫が獲得できれば人口の53%が免疫を持つこととなり集団免疫率50%以上となります。

【参考】大阪大学感染制御部: I.C.T. Monthly, No.233, 2015年



免疫獲得率

 ワクチンを投与すれば100%免疫が付くかと言えば違います。

 先の『人口の53%』とはワクチン接種の人数であり、免疫獲得の人数ではありません。

 例年ですとワクチン接種以外にも季節性インフルエンザに罹患して免疫を獲得する人も多く居ますので、流行がピークを過ぎると集団免疫の理論で流行拡大は鎮静化します。

【参考】国立感染症研究所: インフルエンザ抗体保有状況 -2019年度速報第2報- (2020年1月27日現在)



集団の偏り

 これまでに述べてきた集団免疫は国民全体で考えた数字ですが、その属性に偏りがあれば集団感染も起こり得ます。

 国立感染症研究所の報告によれば、例年の免疫獲得(抗体保有率)は65歳以上は低値、若いほど高値になる傾向があります。
 受診者数を見ても15歳未満が40~50%を占めますが、高齢者は全体の10~15%程度であり数としては多くありません。

 抗体保有率が低く、受診率も低い高齢者に対して今年はインフルエンザワクチンが大量に使われたとした場合、おそらく高齢患者の発生は極めて低くなるものと考えられます。

 一方で、若年層に必要なワクチンが行き渡らなかった場合、若年層に限った流行が頻発する可能性があると考えます。

【参考】国立感染症研究所: 今冬のインフルエンザについて (2019/20シーズン), 2020年8月27日



集団免疫後も個人は罹患

 集団免疫が確立すると感染症流行は抑止できますが、そのコミュニティ居る人が罹患しない訳ではありません。

 免疫を持たない人は、感染者と接触すれば感染リスクがあります。

 今年のワクチンがすべて使われて53%の人が免疫を獲得しても、免疫を持たない47%の人の間では感染する可能性があるので、高熱で受診しなければならない可能性があります。

 企業で半数が欠勤したら仕事が回りません。

 専門性の高い製造業で、1つの工程が操業停止となれば後工程も停止せざるを得ません。

 厨房とフロアを分担している飲食店で、シェフが休んだら開店できません。

 集団感染が起こらなくても、個人が発症することによる危害(ハザード)はあちらこちらに存在します。




 季節性インフルエンザの予防接種は毎年の事ですが、いつもは徒歩1分くらいの近医で接種しています。1回3,500円です。

 今年は中耳炎でお世話になった耳鼻科が3,000円だと聞いたのでそちらで予約しました。

 同じエリアで4,000円の施設もあれば、ターミナル駅前で3,300円という施設、新聞では東京杉並で4,500円の施設が紹介されており、ここまでバラバラなのかと思いました。

 今回、予防接種がどうこう言うことよりも、自由診療から見える地域医療の実情や、地域経済活動の何かが反映されていればと思い調査しました。

 コンサルタントとして、腕を磨いていきたいと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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