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大阪の病床逼迫と二次医療圏 ~本日の話題~

★本日の話題★
二次医療圏について調べてみました。




病床数 地域差が(NHK)

 先週の金曜日にNHKで放送された番組で大阪府内の二次医療圏ごとの病床逼迫の度合いに差があるという分析結果を報じていました。

 普段はNHKを見ないのですが、出先でたまたま拝見して、そういう分析もあるのかぁと思いました。

  • NHKが入手・分析
  • 大阪府が収集しているデータ
  • 新型コロナの患者の入院を調整するため毎日作成
  • 府内200以上の病院の病床の運用状況の記録
  • 府内の8つの「二次医療圏」ごとに病床の数を分析

 というもので、人口10万人対での比較をしていましたが、これは切り口の違いで色々と変わる話だなと思いました。

【参考】NHK:新型コロナ “医療崩壊”は防げるか 大阪 全病院データで迫る(2022年11月25日)

【参考】NHK:新型コロナ 夏の第7波 病床数の地域差 大阪府内で最大3倍(2022年11月25日)




人口10万対

 NHKの分析では2022年夏の第7波で病床の数がピークとなった8月19日の時点で運用されていた重症病床の人口10万人あたりの数字を以下のように報じています。

大阪市医療圏4.83床
北河内医療圏4.74床
泉州医療圏3.73床
三島医療圏3.56床
豊能医療圏2.65床
南河内医療圏2.36床
堺市医療圏2.18床
中河内医療圏1.45床

 この見方を少し変えて見ます。都市名に置き換えるとどうでしょうか。

大阪市4.83床
枚方市、寝屋川市、片野氏、守口市、門真市、大東市、四条畷市4.74床
泉大津市、高石市、和泉市、岸和田市、貝塚市、泉佐野市、泉南市、阪南市、忠岡町、熊取町、岬町3.73床
高槻市、茨木市、摂津市、島本町3.56床
吹田市、豊中市、箕面市、池田市、豊能町、能勢町2.65床
河内長野市、富田林市、大阪狭山市、羽曳野市、藤井寺市、松原市、太子町、河南町、千早赤阪村2.36床
堺市2.18床
東大阪市、八尾市、柏原市1.45床

 別な見方をしてみます。
 人口を入れると少し見え方が変わります。

250万人4.83床
120万人4.74床
100万人3.73床
75万人3.56床
100万人2.65床
65万人2.36床
85万人2.18床
85万人1.45床

 人口10万対は立地条件や人口絶対数と乖離する場合もあるので、必ず人口の絶対数や交通条件などを加味しないと、思考が誘導されてしまいます。

 大阪市は人口が非常に多く、患者数の増加『傾向』で動く病床数が桁違いに多くなりますので、仮に10床確保しておいても、高齢者施設でクラスターが2~3発生しただけですぐに埋まります。
 人口が少なければ高齢者施設も少なく、クラスターの発生確率も少ないです。

【参考】JMAP 地域医療情報システム




昼間人口・夜間人口・住民

 大阪市にはJR西日本(在来線・新幹線)、JR東海(新幹線)、大阪メトロ、阪急、阪神、京阪、近鉄、南海など市外と直結する鉄道路線が多くあります。

 1日の乗降者数が30万人を超える駅がいくつもあり、その人数だけで隣接する吹田市や豊中市の人口に匹敵します。

 オフィス街の淀屋橋では何万人もが働いています。10万人を超えているかもしれません。

 地震などはある瞬間、その場に居た人数が被災者数と相関しますが、感染症の場合は人の動きを見なければなりません。

 いわゆる『人流』が起こす感染拡大です。

 2020年春ごろ『人流を抑える』『ヒトとの接触を8割減』などと言われましたが、まさに人流が感染症の拡大に影響します。




病院分布と移動手段

 南河内二次医療圏には6市2町1村ありますが、公立病院は藤井寺市と松原市の2市にしかありません。

 北河内二次医療圏は7市ありますが、公立病院は枚方市にしかありません。

 三島医療圏は3市1町ありますが、公立病院はありません。ゼロです。

 これによって何が起こるかというと、患者は医療機関が充実した都市へと移動します。

 大阪市内にはたくさんの路線とたくさんの駅がありますが、他の医療圏になると路線数は劇的に少なくなり、駅の数もさほど多くはありません。
 生活に電車が密接ではなくなると、人ごみを移動する機会も少なくなります。すなわち、感染する機会が少なくなります。

 健康弱者である高齢者や病人は市外の医療機関を利用し、健康な人は市内で車移動のため、感染が発生するリスクが市外に偏在する地域が存在する可能性があります。




病院の体制

 医療機関ごとに施設基準が異なります。

 例えば一類感染症を受入れられる体制を整えて、施設基準を満たして届出ている施設は全国に30軒程度です。

【参考】MeKiKiデータベース:一類感染症患者入院医療管理料


 院内の感染対策についてはレベルがいくつかありますが、届出している施設数はまちまちです。

 感染対策向上加算の1は1,250施設、2は1,100施設、3は2,000施設ほどです。
 外来感染対策向上加算は16,900施設ほどが届出ているので非常に多いですが歯科は5軒程度でほぼ医科です。

 『感染』というキーワードだけ見ても『わが街にはない』と思えば他の街へ医療機関を探しに行くと思います。

【参考】MeKiKiデータベース:感染対策向上加算1

【参考】MeKiKiデータベース:感染対策向上加算2

【参考】MeKiKiデータベース:感染対策向上加算3

【参考】MeKiKiデータベース:外来感染対策向上加算


 感染症とはまったく関係ありませんが、例えば禁煙外来を受診しようと思うと専門的な『ニコチン依存症管理料』の届出施設となるので、

【参考】MeKiKiデータベース:ニコチン依存症管理料


 断層画像を撮影する『CT撮影及びMRI撮影』の届出施設数は12,700軒程度で、おおよそ病医院の1割程度になります。
 人口が少なく一定数の来院者数が見込めなければ撮影数も少なくなります。患者人数で割って単価を出すものではなく、全国一律の診療報酬で撮影しますので、過疎地ではCTやMRIは設置困難となり、どうしても都市部まで行かなければならなくなります。
 このあたりが人口10万対で単純計算されると見えづらくなってしまうところです。

【参考】MeKiKiデータベース:CT撮影及びMRI撮影




二次医療圏

 大阪府の二次医療圏が8つに分かれているとご紹介しましたが、全国で同様の区割りが行われています。

 大阪市医療圏には5,600軒ほどの医科・歯科があります。これを医科に限定すると3,400軒ほどです。

 北河内医療圏と大阪市医療圏では人口比では2倍程度ですが、保険医療機関の数では医科・歯科では5,600/1,499なので3.74倍、医科のみでも比率は変わらず3,419/912なので3.75倍の差があります。

 単純に人口比だけで言ってしまうと、本質的な課題を見落とす可能性があります。

 全国の335の二次医療圏で単純に比較してしまうと、想定外のことが起こりますので、二次医療圏ごとの分析が必要になります。

医療圏医科軒数人口概数病床稼働
(10万対)
大阪市医療圏3,419250万人4.83
北河内医療圏912120万人4.74
泉州医療圏724100万人3.73
三島医療圏62475万人3.56
豊能医療圏1,030100万人2.65
南河内医療圏49265万人2.36
堺市医療圏74685万人2.18
中河内医療圏67985万人1.45

【参考】MeKiKiデータベース:二次医療圏『大阪市』

【参考】MeKiKiデータベース:二次医療圏『大阪市』の医科限定




二次医療圏データベース

 二次医療圏毎のデータがわかるデータベースがあるのか無いのかというと、微妙な感じです。

 しっかりと『二次医療圏』と向き合って情報をまとめているとすれば日本医師会のウェブサイトです。

 このウェブサイトで大阪府の大阪市医療圏を開くと、その地域の人口や面積などのデータが出てきます。

【参考】地域医療情報システム


 役に立つかどうかの指標はありませんが、厚生労働省に届け出ている保険医療機関をまとめたデータベースが民から公開されています。

 このデータベースの裏メニューとして二次医療圏検索ができるそうです。
 今回、この記事を書くために利用させて貰いました。

【参考】MeKiKiデータベース:医科・歯科


 同じデータベースの系統で保険薬局のデータベースもあります。

【参考】MeKiKiデータベース:薬局


 このデータベース自体が裏メニューのような施設基準届出データベースもあります。
 収載件数が100万件超の重たいデータベースですが、表示の待ち時間はさほど長くありません。

【参考】MeKiKiデータベース:施設基準届出




おわりに

 NHKの放送内容自体に問題はありませんので、改めて確認しておきます。

 ただし、データは一片だけ見ても正しくは解析できないので、視聴者側も考えながらデータを見て行かないと『大阪市内に住んでいると入院させてもらえない』みたいな間違えた解釈が生まれるかもしれません。

 二次医療圏という便利な区分がありますが、大学病院の所在有無、公立病院の所在有無だけでも医療の性質が変わります。

 筆者は豊能医療圏の病院に勤務していたことがありますが、三島医療圏の救急隊から申し訳なさそうに救急受入要請の電話が入ることがしばしばありました。
 人口の割に救急を取れる医療機関が少ないため、偶発的な患者重複には対応できないことがあります。

 地域の環境によっても状況は変わります。
 北関東や東北から東京へ向かう車が多く通行する埼玉県では、交通事故死の関係者の割合が埼玉県民よりも他県の方が多い場合があります。人流が起こす現象の1つです。

 『一概には言えない』という言葉をよく耳にしますが、新興感染症はわからないことだらけですので、しっかりと判断できる知識を身に付けた方が良いなと思いました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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