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『ATEM Miniシリーズを壊れにくく』 -今日の課題-

★本日の課題★
ATEM Miniシリーズを補強し壊れにくくする


ATEM Mini Pro ISO 補強作戦

1.ATEM Mini シリーズとは?
 ○ATEM Mini / Pro / Pro ISO
 ○廉価だが、安い物ではない

2.壊れそうな箇所を抽出
 ○コネクタ
 ○キー
 ○ランプ
 ○筐体
 ○専用ケーブル

3.脅威分析
 ○想定事象からの脅威分析
 ○ハザード・リスク・脅威
 ○落損
 ○衝突
 ○浸水
 ○コネクタ部荷重印加
 ○抜き挿し

4.プロトタイピング
 ○プロダクトデザイン(ラフ)
 ○本体固定とケーブル固定
 ○ケーブルは常時装着
 ○三次元画像でプロトタイピング
 ○三次元造形でプロトタイピング
 ○組み立て

5.試用と評価
 ○五感で観察
 ○正常動作試験

6.開発 第二期
 ○浸水対策+落下物対策
 ○平置き⇒縦置き
 ○縦置きツール
 ○縦置きの効果

7.完成
 ○完成
 ○副次的効果
 ○欲しい人が居れば….




ATEM Mini シリーズとは?

 ATEM Mini シリーズとは、Blackmagic Design社がリリースしている映像用の切替装置です。

 Blackmagic Design社は映像テクノロジーに関わるデバイス事業を手掛け、放送や映画などの業界で現に使われている機材が多くあります。

 そのプロ向けのメーカーがアマチュアにも広く目を向けて開発した商品の1つがATEM Miniシリーズです。


参考 Blackmagic Design 公式サイト(日本)

参考 Blackmagic Design Official site (EN)



ATEM Mini / Pro / Pro ISO

 2020年夏までに以下の3機種がリリースされています。

ATEM Mini
ATEM Mini Pro
ATEM Mini Pro ISO

 いずれも筐体はほぼ同じ、ボタンの数や機能が異なる物になります。パッと見は違いがわかりません。

 いずれもHDMIで映像を4系統まで入力し、どの映像を使うか手元スイッチで選んでHDMIで出力するというスイッチャー機能は共通します。

 効果(エフェクト)を加える機能、動画配信する機能、記録(録画)する機能などに違いがあります。

参考 Blackmagic Design: ATEM Mini

参考 AmpiTa: ATEM Mini Pro ISO 調達



廉価だが、安い物ではない

 業界のプロ向け機種では中古でも数十万円はするような装置が4万円からとリーズナブルではありますが、安くはないです。

 基盤となるATEM Miniは市価4万円、中間のProは約8万円、上位のPro ISOは約12万円です。

 みなさん『価格以上の価値』と思って買われている方が多いようですが、それなりの価格ですので壊したくありません。

 それを象徴するかのようですが、数千円もする専用ケースが売られています。

ATEM Mini Pro ISO用の耐衝撃ケース (AmpiTa保有)



壊れそうな箇所を抽出


コネクタ

 過去にノートパソコンを修理に出した中で、最も多い原因箇所はコネクタでした。

 電源アダプタのコネクタ挿入部、USBケーブルのコネクタ挿入部あたりです。線を引っ張ってしまったり、パソコンを置いたときにコネクタ部のところに段差があって要らぬ負荷を掛けてしまったりしたことがきっかけであったことを思い出しました。



キー

 同じくノートパソコンで修理した事があるのがキーボードです。以来、なるべくノートパソコン本体のキーボードは使わず、外付けキーボードを用意して使うようにしています。

 医療機器安全管理をしていたときにも、キーやスイッチ関連の故障は多かったことを記憶しています。

 やっかいな事に、同じキーは入手できないという理由で修理不能となり、キー1つのために機器更新という事もありました。



ランプ

 今どきはLEDなのでランプ切れは考えづらいですが、ぶつけてしまえばLEDランプでも点灯しなくなります。

 ATEM Miniではキーに内蔵されたランプに意味がありそうですので、ランプ単体についてはさほど考えなくても良さそうです。



筐体

 落損ではまず筐体が破壊されるか、中の基板が破壊されるかのいずれかが起こる事が多いです。

 筐体は割れても機能に影響は少ないですが、基板はわずかなヒビでも機能を失うことがあります。

 外的な衝撃を和らげる仕組みが必要なようです。



専用ケーブル

 ケーブル類も損傷しやすいアイテムです。

 ただし、今回は電源アダプタ以外は汎用品を使いますので、ほとんどのケーブルは消耗品として扱って大丈夫です。

 HDMIケーブルは固定して使う分には壊れなそうですが、持ち出して使う場合には踏まれたり捻じれたりすることが予想されるため、Amazonでまとめ買いしました。

Amazon Basics の HDMIケーブル



脅威分析

想定事象からの脅威分析

 装置が壊れてしまう経過として、突発的なものと経年的なものに大別できると考えました。

 突発的な事故としては落下(落とす)、衝突(ぶつける・ぶつけられる)、浸水(こぼす)などが考えられました。



ハザード・リスク・脅威

 危害(ハザード)が及ばなければ脅威にはなりません。

 例えば落下の危険性があっても、花瓶ならば破損する恐れがありますが風船なら落ちても危害を加える恐れはほぼありません。

 被害・損害が無ければ脅威にはならないので、何が脅威であるのかを検討し、そのリスクについて検討しました。

 なお、今回は装置の損害保険に加入していないので、保険でリスクを回避するという方法は除外しました。



落損

 ある程度の高さから落とせば壊れる可能性があります。

 作業環境を考えれば机くらいの高さから落下するという可能性は排除できません。落下しない方法や、落下しても損壊しない高さで使うという手段は個々の運用で検討することにしました。

 落とした時に本体に加わる衝撃を和らげる策があれば、落下による損傷リスクは低減できると考えられます。



衝突

 外出先へ装置を搬送する際はキャリーケースに収納するなどの方法で耐衝撃性を獲得する必要がありますので、長距離移動は別な手段を検討するとします。

 室内や建物内での移動、とくに室内で数歩移動するようなときにぶつけてしまう可能性は容易に想像できます。これがリスクになると考えられます。

 ぶつけられる方が可能性が高いと考えました。
 カメラバッテリや三脚などが本装置に落ちてくるかもしれません。



浸水

 飲料の持ち込み禁止で浸水リスクは低減できますが、専用スタジオではなくウェブ会議など普段使いのデスクで使用するため、飲料持込禁止は非現実的、濡れにくい仕組みが必要だと考えました。

 飲み物を掛けてしまえば、少量でも故障する可能性がありますが、少しでも量を減らすことが防衛策の一助になると考えられます。



コネクタ部荷重印加 

 コネクタ部は抜く⇔挿すの方向は円滑に、それ以外の方向には動かせないというのが普通です。

 装置を動かしたときに線を一緒に動かさなければ、不適切な方向に荷重がかかる可能性があります。

 コネクタ部に何か置いてしまったとき、落下してきたとき、コネクタを破損する恐れがあります。

 コネクタ部の衝撃は重大なリスクであると考えます。



抜き挿し

 コネクタの抜き差し作業は、コネクタ損傷の原因となります。

 適切な抜き差しをしていれば問題ありませんが、まっすぐ引き抜くとは限りません。

 抜き挿ししないというのがベストな選択肢だと思います。




プロトタイピング

プロダクトデザイン(ラフ)

 ATEM Mini Pro ISOを眺めながら、どんな形が良いかを考えて徐々に具体化していきました。

 突発的な事故は諦めると仮定しても、経年劣化的なものはなるべく回避して長寿命化したいと考えると、ケーブル類の抜き差しを減らし、またコネクタに掛かる負荷を軽減することが最優先だという結論に至りました。

 そこで、抜き挿しに抵抗が大きく、かつ本体機能や質に多大な影響をあたえる5つのHDMI端子を固定する方法を考えました。

 結果が下図のとおりです。



本体固定とケーブル固定

 ラフ案で示した方法は、板に固定具を取り付けてATEM Mini本体を固定する方法です。

 これだけでは板に縛り付けられているだけでリスク回避にならないので、同時にケーブルも固定します。

 本体とコネクタの位置関係が一定になるためコネクタ損傷のリスク低減、さらにケーブルが固定されているのでケーブル他端から負荷を掛けられてもATEM Mini本体への影響は最小化できると考えました。



ケーブルは常時装着

 HDMIケーブルは抜き差し回数を最小化するために、短いケーブルを常時装着してしまい、その短いケーブルを消耗品と位置付けて壊れたら交換する事にしました。

HDMI延長ケーブル
 HDMIの延長ケーブルです。長さは色々と売られていますが、ATEM Miniに装着したままにするので30cmくらいがちょうど良いかなと思います。一定の品質が期待できてお手頃価格はAmazon Basicsの延長ケーブルですが、少々長いです。ケースに入れて運搬することを考えると邪魔ですが、建物内から持ち出すことが無ければ、このくらいの長さがあった方が運用しやすいかもしれません。


三次元画像でプロトタイピング

 思い描いたものを形にする手段として『図示』があります。

 ラフ案ではスケッチ画のようでしたが、3Dデザインソフトを使って形状や質感などをより具体的に示していきます。

 今回は考案も製造も同一人物(筆者)が行いますので、自身が納得するかだけの問題ですが、複数名が関わる開発ではプロトタイピングの工程を手抜きすれば、手戻りが増えるだけでなく加工費の損失などのハザードが生じる恐れがあります。

 ここは慌てず急がず、じっくり行いました。

スケッチ画から3Dデザインへ


三次元造形でプロトタイピング

 3Dプリンタによる三次元造形で行うプロトタイピングは産業界では今や常識的です。

 今回は量産モデルではないので、三次元造形のプロトタイピングで良い物ができれば、即完成・即使用開始となります。

 デザイン段階では機能や原理を検討しましたが、ここでは形状について詳しく検討します。
 例えば、本体固定の手順はどうなるか、ネジ頭やワッシャーは入るのか、ドライバーはどの角度から使うのかなどを検討し製造や施工にも配慮を広げます。




組み立て

 材料として3Dプリンタで造形した物、板(幅300mm×縦200mm×厚さ2mm)、ネジ(M4)を用意します。

 工具として定規、ペン、センターポンチ、電動ドリルドライバー、ドリル(刃)、タップ、ドライバーを用意します。

 左右対称になるようにネジ穴を開けました。
 まず手前側のネジ穴の位置を決めるために手前端から10mmの位置、芯-芯で230mmになるように中心から115mmの位置に2つのネジ穴をけがきます。
 次に本体固定具の他端のネジ穴を、先ほどの穴から120mm上側に行った位置にけがきます。

 まずは本体固定用の4つのネジ穴をセンターポンチで規定し、3.5mmのドリルで下穴を開け、タップでネジを切ります。

 本体を仮止めし、HDMIポートに5本のケーブルを挿し込んだ状態にしてケーブル固定具の位置決めをします。
 先ほどと同じく板端から10mmの位置にネジ穴がくるようにけがき、同じように穴あけ加工をします。

 各ネジを増し締めすれば完成です。




試用と評価



五感で観察

 完全な答えがある訳ではないので、課題点がないかチェックしていきます。

 本体が動いてしまわないか、あるいは固定がキツ過ぎて本体に負荷が掛かっていないか、絶妙の力加減であることが理想なので固定状態を観察します。

 本体がガタつかなければ、ケーブルとの位置関係が一定を保てるはずせすので、ケーブル位置が適正になるように固定されているかも同時に観察します。

 ケーブルを1本ずつ引っ張るなど動かしてみて、コネクタに力が伝わっていないことが確認できれば成功です。



正常動作試験

 本来の性能を発揮しているか、実際にカメラ等を接続して試験してみます。

 当然ですが、問題なく使えます。




開発 第二期

浸水対策+落下物対策

 前述の板への固定によりコネクタ部の強化ができました。これでコネクタが損傷することによる本体故障、それによる使用不能期間(デッドタイム)や買替費用負担の発生を抑制できます。

 脅威を遠ざけるためにリスクを減らす、その作業はこれで終わりではありません。

 飲み物をこぼしてしまうことによる浸水損傷は回避できていなかったため、新たに検討を加えました。

 飲み物と同様に、カメラバッテリなど重い物が勢いよく落下してくることもリスクと捉え、対策を検討しました。



平置き⇒縦置き

 演者やモニタを見ながらスイッチャーを見ずに操作することが必要なのかもしれませんが、必ずしも平置きでなければならないという事も無いのでは、と考えました。

 結論として、本体を立てて使うことにしました。

 立て方にも色々と方法がありますが、ケーブルの負荷が少ない向きを考えると1つしかありません。



縦置きツール

 製作したのは、板を挟んで脚となるブロック2個です。

 スリット部に板が挟まる訳ですが左右の中央にスリットが無いのは重量バランスの都合です。

 この2つの脚だけで十分に倒れないです。

 壁際にATEM Miniを置いて運用する分にはボタン操作への影響は少ないですが、壁の無い所で自立して使う場合には、もう少し脚部に工夫が要るかもしれません。



縦置きの効果

 平置きの場合に上を向いている面積は24cm×10cmで約240平方センチメートル、縦置きの場合は3cm×10cmで約30平方センチメートル。

 この8倍の面積差は非常に大きいと思います。

 液体が掛かってしまう確率も落下物が当たる可能性も8分の1になったと考える事ができると思います。

 さらに上面となっている部分にはATEM Mini固定具があるため、落下物は直接はATEM Miniには当たらずに固定具に当たりますので、ATEM Miniが損傷するリスクは相当に低減されていると思います。




完成


 しばらくは試用期間となりますが、ATEM Mini Pro ISOを大事に使うための基盤ができたのではないかと思います。

 もう少し研究すれば平置きと縦置きのどちらでも課題なく運用できる方法が見つかるのではないかと期待しています。



副次的効果

 この効果は期待していたとおりなのですが、熱を逃がしやすくなりました。

 ATEM Mini自体が5mmほど浮くような感じになるので空気の層を形成できます。
 その下面は塞がれているとはいえ金属板を使っているので、放熱効果があると考えられます。触った感じですと装置真下は温かくなりますが金属板全体は熱くはならないので放熱板の役目を果たしていると考えます。

 両サイドの排気口も生かしていますので、装置の6面全面から熱を逃がすことができていると思います。



欲しい人が居れば….

 毎度こうしたモノづくりによる課題解決をしたあとで課題になるのが『均霑化』(きんてんか)です。

 欲しい人が居るのだから入手できるようにすべきではないか、個人が作ったいい加減な物を他人に提供しようなんて無謀だ、などなど色々な意見が出てきます。

 材料費、3Dプリンタやドリルなどを保有している費用、製造にかかる光熱費、作業者の手間、ここに至るまでの開発に要した時間や材料費、色々と加算するといくらが妥当でしょうか。

 フリマアプリで売る場合、仮に5,000円で出品し宅急便100サイズで送るとすると、取引手数料10%で500円、送料1,000円が出品車負担となりますので手元には3,500円が入ります。

 今回の手間賃は除いた原価は3千円を超えそうなので、5千円で出品しても原価販売に近く、労力は報われない感じです。

 欲しい人が居れば、考えるようにします。




 今回の解決策は、補強用器具の内製化、でした。

 そして、置き方を工夫するのも今回の解決策の1つでした。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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